〈詩〉冬枯れの里山を歩いて
          高橋 勝


空気が肌に触れ
肌が 空気に吸い込まれていく
時として吹き上がるのは
物言わぬ木の葉たちの
四方八方に囁く声のみ
足に任せて歩いていると
今の時節の日没のように
時間までが いつの間にか消えていく
息づく意識は 過ぎたりし記憶の底へと
降りている

生徒たちは
月曜日の朝には
無邪気な顔つきで
いっせいに教師の顔に目を放つ
容赦なく肌で感じ取ろうとするのは
教師の微妙に変化している心理状態
教師は 装う術も奪い去られ
説教したり 講義をしたりするしかない
生徒たちの目つきが曇り
ああ! 今日もまたか
と 大人げな顔つきに変わるのに
時間は そうかからない
教師は 空の脱穀車を
ぶんぶん回転させるみたいに
なお一層自分に鞭打って
所定の授業に弾みをつけようとする
だが内実は
ステイションの船から
命綱がぷっつり切れて
宇宙空間の漆黒に放り込まれ
ゆく当てもなく
じたばたと 飛ばされていくだけだった

今のこの すでに退職の身となって 
冬枯れの山路を 一人歩き続けていると 
雪の一片ひとひらの幻想が頭を過ぎる 
一〇年も二〇年も前の 過ぎ去った一場面 
学校に存在を余儀なくされている子ども達
虚無感に浸された幼い身で
必死で見出そうとしていたのは何だったのか  
あの人っ子一人いない宇宙空間に
飛ばされることしかできなかった一教師 
何気なく顔をあげると
コナラやブナノキ エゴノキも交じる
樹林のなかに
木洩れ日が 奥深くまでも差し込み
ところどころ 縞になって光っている