同級会への出席
               石川 のり子

 7月に開催された中学校の同級会は、箱根だった。
 箱根ならわが家から、それほど遠くない。常磐線から山手線に乗り換えて新宿駅に出て、小田急線の電車に乗る。かつて小田急沿線の秦野市に住んでいたので、特に親しみがわいた。すぐに出席のハガキを出した。

 当日は午後3時に現地集合だったが、10時に家を出た。駅前の駐車場に車を預け、新宿で12時30分発の特急ロマンスカーに乗った。乗車時間は1時間半、車内で昼食のサンドイッチを買い、窓外の風景を眺めながら食べた。
 幹事の案内によると、箱根湯元駅で同級生と合流し、箱根登山鉄道の終点「強羅(ごうら)」で下車すれば、歩いて5分、直進だから迷う心配はないとのことだった。今回の宿泊所は、大手の電機メーカーに勤めていたEさんが、空けておくよりは利用してもらった方がいいということで予約してくれた。さすが企業の保養所は庭の手入れが行き届き、落ち着いた佇まいで迎えてくれた。
 毎回出席しているというK子さんが、長身のEさんに、
「いい宿を紹介してくれて、ありがとう」
 と、礼を言い、次いで私に、新潟弁のイントネーションで、
「まあ、久しぶり、元気だった?」
 と、話しかけてきた。小学校のときから机を並べていたが、だんだん彼女が母親に似てきて、思わず笑みが浮かんだ。もう曽孫がいるという。

 100名山を踏破した健脚のW子さんも、日焼けした顔に笑顔を浮かべていた。同級生と会っているとみんな柔和な顔になる。みんな中学時代には想像できなかった道を歩んでいるのだ。中学校を卒業して60年も経つのだから、当たり前だが、それぞれに語り尽くせないドラマがあることだろう。じっくり聞いてみたいと思った。
 部屋の割り当てが決まるまで、ロビーはにぎわっていた。いつも出席するメンバーで、女性は16名、男性が6名だった。
 子どもが成長し、同級会を開催するようになった20数年前、若かったが、もっと出席者が多く、卒業アルバムを持ってきた人が、アルバムで名前を確認したほどだった。担任の先生もお呼びし、120名の卒業生のうち3分の1ほどは集まっただろう。進学や就職で日本各地に散らばっていたため、会場は地元の新潟近辺や東京との中間点の越後湯沢、水上温泉などだった。めいめいが参加しやすいように、宿泊するホテル側と交渉して、バスを用意してもらっていた。

 後期高齢者になった今年、「たまには目先を変えた方がいい」との意見が出て、それならばと、箱根に白羽の矢が立ったのだ。新幹線の利用もあるので、参加者が少ないのではないかと案じられたが、予想は半分当たっていた。
 関東組は気軽に出席できるので、参加が多いのではないかと期待したが、箱根は何回も行っているので、わざわざ宿泊するまでもないと、返信のはがきに書く人もいたという。勘ぐれば年を取って出席する意欲が薄れてきたのかもしれない。
 いっしょの部屋になった4人は、子どもや孫の話をして、病気の話になった。乳がんの手術をして回復をした人、高血圧や脂質異常で薬を飲んでいる人、ご主人が80歳になって免許証を返した話など、話題は尽きなかった。

 夕食のテーブルは、いつも出席するメンバーの顔ぶれだった。しかし、残念だったのは、同級会の顔ともいえる正子さんがいないことだった。隣席に座ったチエ子さんに聞くと、昨年風呂場で倒れ、脳卒中で急死したという。彼女は同じ町内会で、卓球も一緒にやっていた仲間だったので、ショックは大きかったという。出席者の中では、彼女がいなくなって、同級会が成り立たないと言い出す人もいたほどで、面倒見が良く、バスの中でも会場でも、海の家をやっていた経験が生きて、場を盛り上げるのがうまかった。
 チエ子さんは、最近、曽孫の子守りに忙しく、卓球も休みがちで、しばらく会っていなかったことを悔いていた。正子さんの死は病気ではなく、親戚の法事に出かけ、「疲れたから、風呂に入って、早く寝るこて」と、ご主人に告げたまま、帰らぬ人になった。
 宴会の始まる前に、
「みなさん、正子さんを偲んで、一分間の黙祷をお願いします」
 と、Kさんが音頭をとって、全員が頭(こうべ)を垂れた。一瞬、彼女の屈伸している姿が浮かんだ。体が柔らかでそれが自慢だった。健康そうに見えたが、人の寿命はわからない。
 そういえば、古希の同級会で元気な顔を見せていた人も亡くなっていた。70代半ばなのだから、驚くことでもないかもしれないが、元気だったころのことを思い浮かべると、言葉がない。
 ひと頃に比べると、アルコールの飲む量がずいぶん減った。それに健康のため男性も飲まなくなった。ビールが減らないため、男性は女性に飲ませようと、しきりに勧めてくる。それを断る女性は黄色い声をあげて、他のお客の迷惑になるので、と幹事の注意を受けた。このフロアには50人ほどいるだろう。
 平日でもこんなに宿泊客がいるのだから、採算はとれていると思われる。
 料理の方は、お刺身、揚げ物、鍋物、酢の物、サラダ、デザートなどと、みんなきれいに平らげている。私も太ることなど気にせずにお腹いっぱい食べた。飲み物はビールや地元のお酒、ウーロン茶などが残っていた。

 食後はカラオケルームで歌三昧だった。マイクを独り占めしている人が何人かいて、順番に無理やり歌わされることがなくて、音痴の私は助かった。
 温泉も込み合うことなく、ゆったり入った。
 これから何度出席できるかわからないが、幼馴染に会って、生きる活力をもらった。
 女性の平均寿命はおよそ87歳、男性は80歳とのことだが、それまで元気で会いましょうね、と話し合った。