一口随想(二) 日々をていねいに                           水品彦平
 先日、妙に胃がもたれるのでお医者さんに診てもらった。
 診断の結果は、
「まぁ、ガンということはないでしょう。念のため薬を出しておきますので、しばらく様子を見ましょう」
 と、いうことだった。家に帰って妻にそう伝えると、
「よかったねぇ」
 と言って、こころから安堵の表情を私に見せていた。二人はそれから、
「お互いにもう年だから、体には注意していかないとね」
 などと、とりとめのない会話をしながらお昼ご飯を食べていたのだった。
 しばらくして気がつくと、わたしたちは二人とも静かに黙黙と箸を動かしていた。こういうことはいつものことで、思いつけばまた話し続ける。なければ静かに黙って、が二人の食事のありようだった。
 ただその日、どういう訳か、わたしは妻の顔をジッと見た。何気なくである。そして、不思議な感慨に襲われた。
 わたしも妻も還暦を越え、人生の後半に入った。素っ気なくいえば、もう間もなく死ぬ時期も遠くないだろう。死ねば、跡形もなく無に帰す。全くの無に帰す。目の前の妻とも永遠におさらばなのだ。
 結婚して四十年近くなる。いろいろあった。辛いこともあったし、うれしいこともあった。悲しいこともたのしいこともあった。良くも悪くも、二人のなつかしい思い出である。
 でも、死ねばもう二人で共に何かを体験したりすることもない。喜んだり、がっかりしたりすることを味わうこともない。
 そう思うと、ちょっと恥ずかしいが、こころの底からわが妻へのいとおしさがわき上がってきたのだった。
 大事にしよう。あと幾ばくもない時間を、二人でていねいに生きていこう。ひとつひとつの日々のさり気ないことでも、決していい加減にせず、慈しみ合い、味わいながらこれからの時間を過ごしていこう。互いにいたわり合いながら残りの時間を二人で……。
 突然のようにそこへ、妻のキツイ声が飛んできた。
「お父さんッ、少し漬物を食べ過ぎているんじゃない? 体に悪いわよ!」
 ナヌッ? でも、よく見れば妻の目は笑っている。イヤー、アハハハである。