一年ぶりの仲間と   
               石川のり子     

 小春日和である。午前十一時、高校時代の旧友五人と水戸駅で落ち合った。いつものメンバーの姿を目にすると、日常の家事から解き放された高揚感で、ついつい大きな声で挨拶を交わす。
 水戸駅からは水郡線に乗る。水郡線は二両編成のローカル線で、福島県の郡山駅まで走っている。目的地の袋田の滝は水戸駅から一時間十五分で、上野駅から水戸駅までの特急「スーパーひたち」の乗車時間とほぼ同じである。距離は半分だが、無人駅もあるので停車時間が長いのだ。
 車内はほぼ満席、私たちは向かい合って座った。見た目は変わりない。この旅行に参加できるのは元気の証拠ねと、改めて再会を喜び合った。当然ながら全員七十一歳で、孫もいるおばあさんである。にもかかわらず、高校時代のように「ちゃん」付けで呼びあっている。話している本人たちは何の不思議もないのだが、隣席の高校生が怪訝そうに時々見る。
「うるさくてごめんなさい。半世紀前にあなたと同じ高校生だったのよ」
 Kさんが笑顔で謝って、みんなで声のトーンを落とす。
 しかし、家族抜きの一泊旅行は、気持ちが若返って、はしゃいでしまう。お互いが離れているせいもあって行き来はしていないが、二十数回も回を重ねると、会ったこともないお互いの家族に親近感をおぼえて、結婚して子供が生まれたなどと聞くと、我がことのように力が入ってしまうのだ。

 今回の幹事は茨城県の北部に住んでいるY子さんである。彼女は釣り好きなご主人の退職で海辺に居を移して、八年ほどになる。三年前の東北地方を襲った震災では心配してメールをしたが、「あなたのところと同じよ」と、返信があった。我が家は茨城県の南部で海からは離れているが、彼女の家とは近いようだ。
 Y子さんから大子(だいご)町の袋田の滝の旅行案内が届いたのは九月の末であった。まだまだ先のことだと思っていたのに、十一月はすぐにきた。乗り換え案内で時間を調べ、切符を購入した。預ける犬のホテルも電話で予約した。
 地理的には、埼玉県の熊谷市や春日部市、東京や名古屋市に比べれば、県内の大子町は庭のようなものだが、我が家からでも三時間はかかる。

 車窓の紅葉は見事なのにおしゃべりをしていてじっくり観賞せずに袋田駅に到着した。下車客が意外に多く、乗客は三分の一ほどになった。みんな袋田の滝へ行くのだろう。無人駅とあって前の車両の出口に立っている車掌さんに切符を渡して下車する。いちばん最後に下りたせいか、駅前に停まっていた満員バスは発車してしまった。
 駅舎は木造の三角屋根で、周囲の紅葉した山の風景に溶け込んでいる。
 計画では時分どきなので駅前で昼食を摂るはずだったが、食堂が一軒も見当たらない。一台だけ停まっていたタクシーの運転手に尋ねると、袋田の滝の入り口近くには何軒もあるらしい。十分ほどで着くので、すぐ引き返してくれるという。三人ずつに分かれて乗った。
 滝の近くは平日にもかかわらず、観光バスが四,五台も停まっていて、乗用車も多く、混雑していた。
 一時過ぎに、名産の手打ちそばに舌鼓を打った。その食堂で荷物を預かってもらい、貴重品だけを身に付けて、滝に向かった。滝まではトンネルのエレベーターに乗って上がる。この滝は高さが120メートルあって、四段に流れ落ちているという。73メートルの広い幅一面に幾筋もの水が流れ落ち迫力があった。また、両脇を太い筋になって流れている箇所もあって、違った滝を堪能した。さすが日光の華厳の滝、南紀の那智の滝と並んで日本三名瀑と称えられるのもうなずける。
 滝の周りの木々は黄色と赤と見事に色づいていて、流れ落ちる水しぶきも日に輝いて見える。圧巻は真っ赤なカエデの枝越しに見える滝で、ここには大勢の観光客がいた。私たちは六人で写真を撮ってもらおうと、大きなカメラを持った男性に声を掛けて、私の小さなカメラを渡してシャッターを押してもらった。
 プロのカメラマンだったのか、絶妙な位置に滝とカエデの枝が入り、出来上がりに大満足した。
 秋の日は「つるべ落とし」と言うが、四時を過ぎると肌寒くなってきた。
 荷物を預かってもらった食堂で、それぞれがお土産のおそばを買った。

 奥久慈のホテルには四時半にチェックインした。二人ずつ三部屋が用意されていた。各部屋にある湯呑を持って真ん中の部屋に集まった。紅葉狩りで歩き回った足を伸ばし、お茶をいただいた。夕食までは温泉にも入らずに、おしゃべりタイムである。
 Kさんが手作りの干し柿をタッパーに入れて持って来ていた。わざわざ渋柿を新潟の友人に送ってもらって、作ったのだという。J子さんも干し柿作りにはまっていて、吊り下げるのに便利なグッズがあると、情報交換である。Y子さんと私は渋柿の皮は剥かず、蔕(へた)に焼酎をつけて密閉して渋を抜いて食べていると話す。渋柿は近所の農家からときどき頂くのだ。他の二人は甘い柿を買って食べているとのこと、それぞれである。
 明日の解散まで、時間はたっぷりある。