子どもの疑問  
                黒瀬長生


 子どもは、意外なものに興味を示すものである。先日(二月七日)、姪(めい)の小学一年生の長男と散歩をしていると、行き交う自動車を見ながら、
「おじちゃん、車のタイヤはなんで全部黒い色をしているの……」
 と聞く。私は予測だにしていなかった問いかけに答えに窮してしまった。
 たしかに、子どもの言うように車のタイヤはいずれも黒である。車のボディーの色は黒や白、赤や青とカラフルなのにである。
 私は、その場しのぎで、
「タイヤは黒い色の方が、汚れが目立たないからではないだろうか……」
 と答えた。ところが子どもは、
「消防車は赤色で、救急車は白色のタイヤが格好いいのにねえ」
 と続けて言う。なるほどそうかもしれない。だが現実は、消防車も救急車も、バスもダンプも自家用車も、タイヤの色はすべて黒色である。
 カラフルなタイヤは、車のユーザーから要望がないためメーカーが製造しないのであろうか。しかし、各人の趣向は百人百様で、赤や黄色のタイヤを欲しがる者がいてもおかしくはないはずである。にもかかわらず、黒色以外のカラフルなタイヤはお目にかかれないのはなぜだろうか、と思いを巡らした。
 私は、残念ながら子どもの疑問に答えることができず、
「おじちゃんにも分からん。お母さんに聞いてみて……」
 と、無責任にその場を繕(つくろ)った。

 その数日後であった。 コンビニで雑誌のコーナーを覗いていると、先のタイヤの疑問に答えている冊子(『子どもの「なんで?」がわかる本』)が目に留まり、迷わず買い求めた。
 その冊子の解説を要約すると、
「タイヤの主な原材料は、天然ゴムと石油から作る合成ゴムである。しかし、この二つのゴムだけで作ったタイヤは、摩耗に耐えるだけの強度がない。そのため補強材としてカーボンブラックという炭素の粉を混ぜて、ゴムの強度を高めているのである」
「カーボンブラックは黒色で、タイヤの原材料の二五パーセント程度を占めているのでタイヤは黒くなる」
「カーボンブラック以外の補強材を使えば、いろいろな色のタイヤを作ることは可能であるが強度が著しく低下する。 そのため現在では、カーボンブラックに代わる新しい材料が発明されない限り、実用に耐えられるカラータイヤを作ることは無理である」

 これでいずれのタイヤも黒色であることが理解できた。そのことを早速子どもに電話で知らせた。
 このタイヤの疑問に導かれるように、冊子のページをめくると、次々と目から鱗(うろこ)の事柄が羅列されていた。 
 豆腐は、なぜ「やっこ」というか……江戸時代の大名行列で先頭の槍を持っていた奴(やっこ)さんが身につけていた紋付の紋が白色の正方形であった。その紋に豆腐が似ているため、「やっこ」と言われるようになった。
 カニ缶の中身が紙に包まれているのは……カニ肉は、缶の材料である鉄に触れると表面にゴマのような黒い点ができ、見た目が悪くなってしまうため、 缶とカニ肉を水を通さない硫酸紙で仕切っているのである。
 賞状の文章に句読点がないのは……日本の文章の形式は、中国から入ってきたもので句読点はなかった。ところが、これでは読みづらいため、読む人が自分で読みやすいように句読点をつけたのである。文章に句読点をつけるようになったのは明治以降で、正式な文章には句読点をつけないという昔からの考え方が生きているためである。
 いずれも納得させられることばかりである。まだまだ、興味を引く項目は続いていた。
 親切を、なんで「親を切る」と書くか?
 色鉛筆は、なんで最初から削って売られているか?
 ハエは、なんで手や足をこするのか?

 私は、いつも仕事や趣味関係の書物ばかり読んでなんとなく満足しているが、時には、この冊子のように普段の生活とは掛け離れた書物に目を通すことによって、新鮮な発見で心がほのぼのとなり、子どもの頃の素朴な感性を取り戻せるものだ、と教えられたのである。

       (随筆 次の楽しみ)より