草を楽しむ
                  羽田 竹美

 一般の人から嫌われる雑草だが、私にとってこの上もなく愛する宝物と思える草たちがある。
 昨年(平成28年)の3月、お借りしている駐車場で当て逃げされてしまった。この駐車場は私の1台が月極で、あとはコインパーキングになっている。コインパーキングの利用者が出庫の際に私の車にこすって傷をつけ、そのまま逃げたようだ。ディーラーで傷を直してもらい、ほっとしてのつかの間、再び当て逃げされた。今度は前回より深い傷であった。これでは何回直しても、又やられるだろう。どこか別の駐車場に移りたい。真剣に悩んでいたら、近くの都営アパートの駐車場が近隣の人に貸し出されるという情報をもらった。早速問い合わせると、申し込み用紙を送ってくれた。いろいろ審査があるらしい。1か月近く待たされてやっと、審査が通って手続きが出来た。
 この都営アパートは新しく建て替えられて立派になったが、車を手放す人が多く、駐車場のほとんどが空いている。入れやすいところを選んで、ラッキーナンバー7に決めた。もう当て逃げされる心配はないし、下がコンクリートなので、汚れない。何よりうれしいのは3千円も安い。家から歩いて10分ほどで少し遠くなったが、リハビリと考えればよいだろう。
 最初は駐車場のことばかりに目を奪われていたが、都営アパートの敷地には、犬が入れないように土を盛って高くした草地があちこちにあるのを発見して好奇心に駆られた。どんな草があるか観察して歩いた。日当たりのよいところにはタンポポや蓬(よもぎ)が、木の下の草地には白い花がたくさん咲いている。ハナニラかと思って近づくと、園芸種のオー二ソガラムという花で、他にベツレヘムの星というステキな名前がついている。はじめは誰かが植えたのだろうが、どんどん増えて野生化している。あちらこちらの草地を回ってみると、ニワゼキショウがイネ科の草の中にたくさん咲いており、5月の陽光を浴びてネジバナが螺旋(らせん)状の花を見せている。車を動かすたびに今日はどんな花に会えるかとわくわくしてしまった。
 昨年夏、リハビリのために群馬県の上牧(かみもく)温泉病院に行った。リハビリ散歩で外に出たとき野草を摘んできてお部屋に生けておいたら、お部屋の人ばかりでなく看護師さんたちからも、
「これがあるだけで癒される」
 と、大そう喜ばれた。それを思い出して、車を置いて帰りに草地でヒメジョオン、エノコログサ、ネジバナと蔓性シダ植物のカニクサを摘んで帰った。庭に咲いている黄色のルトべキアを合わせて生けるプランを立てる。せっかくの野の花を野趣豊かに生けたいので普通の花瓶では面白くない。小さなペットボトルを横にして上に穴をあけて生けてみる。エノコログサとカニクサが流れになっていい具合に生けられた。リビングに置いておいたら、お掃除をお願いしているヘルパーさんに、
「ステキ! いいアイデアですね。野草がこんなになるなんてすばらしいですね」
 と、褒められた。
 小さなピンクの花がたくさん咲いている。夕方見るとどこにもない。一日花なのだ。図鑑で調べると、アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧)だった。朝摘んできてビンにさし、急いで葉書に描く。水彩絵の具で色をつけた後、筆で聖書の言葉を書いて楽しんでいる。ツユクサも朝7時ごろ咲くが、お昼ごろにはしぼんでしまうので描くには大急ぎだ。
 2,3年前から気になっていた草があった。ひょろひょろ伸びて紫色の花をつける。よく見ると、小さくて愛らしい花なのだ。上牧で一緒になってよく草花の話をした人の持っていた『散歩の花図鑑』(新星出版)にこれが出ていた。キキョウ草だという。たしかにキキョウの花色で花の形も似ている。これも駐車場の草地にたくさん咲いている。あんまりかわいいので少し抜いてきて庭に植えてみたが、ここが気に入ってくれるかわからない。日当たりを好む草だったら無理かもしれない。草といっても案外気難しいのだ。
 先日、本屋さんで花の本を探していたら、『草と暮らす』(誠文堂新光社)という本が目に留まった。この著者も雑草が好きらしい。「雑草のことを親しみをこめて草と書きます」と書いてあったのですっかり気に入って買ってきた。「草を食べる」「お茶にして飲む」「飾って楽しむ」「心と体を癒す」など私がやっていること、又はやってみたいことがたくさん書いてある。
 春のサラダにはタンポポ、スミレ、ムラサキカタバミ、蓬、ヤブガラシなどを使って味はわからないが見た目が美しい。草にはビタミンやミネラルが豊富に含まれているという。来年春になったらあの草地に咲いているタンポポや、やわらかそうな蓬を摘んできてサラダにしてみよう。庭に咲いているスミレの花も入れて。
 それぞれ効用がある「お茶にして飲む」はアメリカフウロのお茶があった。草地にたくさん生えているのがゲンノショウコの仲間のアメリカフウロだった。来年の春、摘んでお茶にしよう。蓬もたくさんあるから、蓬茶も期待できそうだ。お風呂に入れるのも松葉を入れると温まるとあった。お正月の生け花に必ず使う松は捨てないでお風呂に入れてみよう。読みながらあれもこれもと、してみたいものがたくさんで、心がゴムマリのように弾んでくる。
 ときどき業者が入ってきれいに刈ってしまうが、雨が降ってしばらくすると草は伸びてきて花を咲かせている。そんな彼らの生命力から私はこれからしばらくの間、元気がもらえそうだ。