納涼盆踊り大会   
     
                 石川のり子
 七月の第三土曜日に納涼盆踊り大会が開催された。夏休みにはいったばかりの土曜日とあって、いつもはひっそりとしている近所から、昨日はめずらしく子どもの笑い声が聞こえた。お孫さんが盆踊り大会を楽しみに泊りがけでやってきているようだ。
 残念ながらお天気は大気が不安定で、私が目覚めた五時にはどんより曇った空から、細かい雨粒が落ちていた。我が家には孫たちは来ないが、ティッシュペーパーで小さな照る照る坊主を作ってベランダの物干し竿にぶら下げた。「どうぞ、お天気にしてください」声にすると、童心にかえったような気分になった。
 納涼盆踊り大会のように地域で決められた行事は、多少の雨くらいでは延期にならない。
 一昨年、私が二十軒ほどの隣組の班長だったとき、大会の当日、長袖を重ね着しないと寒いほどの悪天候だった。勝手に延期になるだろうと思い込み、朝八時半の集合に遅刻してしまった。リーダーからお電話をいただいて駆けつけたが、大勢の役員がジャンパーを着て会場作りに勤しんでおられた。一日中気温は上がることはなかったが、雨が止んだので盆踊り大会も花火大会も無事終了した。しかし、人出は例年どおりとまではいかなかったようだ。やはり行事は、好天が一番である。
 三十数回になる納涼盆踊り大会だが、晴天の時が多いのだろうか。

 お天気は、昼過ぎには青空も見えて、太陽が顔を出した。私はうれしくなって、強い日ざしにもかかわらず、家の中で寝ている犬を散歩に連れ出した。
 大会会場の公園は、芝生がきれいに刈り整えられ、中央には櫓(やぐら)が組まれてあった。その上や回りには、赤と白、青と白、黄色と白といったカラフルな色に塗られた縦じまの祭り提灯が取り付けられ、公園の隅に向かって張られたロープにも等間隔に並んでいた。数えてはいないが、二百個ぐらいはあるのだろうか。櫓の下は紅白の幕が張られ、中の骨組みが見えないようになっている。ここで盆踊りが催されるのだ。
 周囲には夜店のテントがいくつも並び、芝生にはビアガーデン用の丸いテントに椅子が数脚ある。すでに焼き鳥や焼きそばのテントでは仕込みをしている。出入り口近くには、受付や放送、抽選が行われるテントもある。抽選は自転車やポケットラジオなどが十五名に当たるという。
 夜店の開始は三時の予定だが、すでに子どもたちがテントの周りにたむろしている。浴衣姿の女の子も数人いる。販売される食べ物や玩具はすべて町民の手作りで、買物券や食べ物券は、町内の回覧で予約を取って、前売り券として販売されている。それを持っての買い物だから、準備さえできていれば、多少時間が早くても大丈夫である。雨が心配だからだろう、もう売り出しを始めている店もある。
 ちなみにどのような品物が販売されるかというと、老人会手作りのおでん、どこのグループの担当かわからないが、ビールのおつまみにもなる焼き鳥、焼きそば、アメリカンフランクやシュウマイ。子どもの好きな綿あめ、かき氷、それに金魚すくいとヨーヨーなどがある。もちろん生ビールも売られている。あらゆる年齢層の人たちを対象にしている。
 役員の中には、何回も材料の仕入れを担当している方もいて、要領も作り方も熟知されている。
 私は、引っ越してきて数年で、順番とはいえ地区の班長になり、いろんな事を教わった。九百軒もの家が並び、班長だけでも七、八十人はいるというので、さほど準備することもないだろうと思っていた。ところが、大会の一か月前になると、買い物の予約をとり、お金と引き換えに前売り券を渡し、本部に納める大事な仕事があった。
 そして、ヨーヨー売りの担当になっていたため、前日に、リーダーから細い和紙を百枚ほど渡されて、こよりを作り、それを半分に折ってS字型の金具に付けた。ゴム風船に空気を入れるのは当日の午前中だった。割り当てられた百個の風船に空気を入れ、金具で止めて水に浮かべる。初めての体験で夢中で作業をしたが、右腕が痛くなった。毎年担当しているリーダーの男性は、すでに会社を定年退職されているが、現役のころから浅草に仕入れに行っていたとのことで、さすがプロ並みの手早さであった。一個五十円で売られた千個のヨーヨーは、小さい子どもに人気があって完売した。 
 
 天気は、予報どおり気圧が不安定で、お天気雨が降ってきた。私は犬と急いで公園の周囲をひとまわりして帰った。
 雨が本格的に降り出したのは、五時をまわってからだった。抽選の始まる七時にはもう一度公園に行きたいと思っていたが、雨は止みそうになく、だんだん強くなってきた。雨音を聞きながら、夕食の用意をしていると、雷の音までしてきた。雷の苦手な犬が怖がってキャンキャン鳴くので、急いで雨戸を閉めると、まったく公園の笛・太鼓やアナウンスまでも聞こえなくなった。

 花火の打ち上げだけが延期になって、翌々日の七時半から実施された。
 犬に留守番をさせて公園に出かけた。周囲の道路には団扇を片手に大勢の男女が立って花火見物をしていた。
 公園の南側の障害物の何もない人家からも離れた位置で、花火は慎重に上げられた。さほど大きくない花火だが、目の前で打ち上げられると、火の粉が降りかかって火傷をするのではないかと、心配するほど迫力があった。見ている人は手をたたき、歓声を上げた。
 明るくなるたびに北側に座って見ている観客が照らし出され、こんなに多くの人が住んでいる地区だったのかと、改めて実感させられた。
 外は涼しく、花火にはちょうど良い夜だった。二十分ほどで、もっと見ていたいと思ったころ、終わりになった。
 帰り道、私の横を歩いていたご近所の母娘が、
「お祭りの日だったら、〇ちゃんも見られて、もっと良かったのにね」
 と話していた。
「今晩は」
 私は会釈をして歩調を速めた。