御節介
               黒瀬 長生

 御節介は、『おせっかい』と読み、その意味は他人の事柄に不必要に立ち入って世話をやく行為で、出しゃばった不要な介入の感じだが、一般的には他人に注意などすることである。ときには、この御節介が大いに参考となり、ご注意いただいたことに感謝をする場合がある。

 私は団地内の小さな菜園で野菜作りを楽しんでいるが、雑草や野菜の茎と根を何年も家庭用ゴミとしてビニール袋に入れて処分していた。そんなときであった。見ず知らずの初老の男性から御節介を受けた。
「兄さん、それを棄てるのは勿体ない。畑の隅に集めて置けば自然に腐葉土になる。また、腐らない大きな物は燃やしてその灰を畑に撒けば肥料なのに……」
 なるほど言われるとおりである。雑草などを一か所に集めるだけなので労力もいらず、ゴミ収集日に持ち出す手間も省ける。さっそく畑の隅にゴミ置き場を作り、次々と雑草や野菜の茎などを山積みした。一か月ほど経ってその小山を掘り返してみると、発酵して立派な腐葉土になっていた。また、腐りにくい物は燃やしてその灰を畑に撒いた。
 これほど簡単に腐葉土や肥料が出来るのに、今まで何年も家庭用ゴミとして処分し、勿体ないことをしたものだ、と反省しつつ初老の男性の御節介に感謝した。

 それから数か月が経った。野菜の茎や根はなかなか腐らないので、それらをかき集めて燃やしていた。ほぼ燃やし終わった頃である。これまた見ず知らずの中年のご婦人が近づいてきた。
「私は〇〇と言います。正式に申し出ようと思いましたが、直接の方が角が立ちませんのであえて申し上げます。ここでゴミを燃やされると洗濯物に匂いが付く、と皆が困っていますので止めてください」
 あまりの迫力に圧倒され、私は即座に、「分かりました」と答えた。その後、ご婦人は言うだけのことは言ったとばかりに肩で風を切るごとく胸を張ってその場を立ち去った。たしかにこの場所でゴミを燃やすことは、ご婦人に言われるまでもなく、団地の住民にとっては迷惑なことに違いない。しかし、冷静になって考えてみると、ご婦人は団地の住民ではない。おそらく団地の周辺にお住まいの方であろうが、団地の住民からの御節介を受けたのならば、多少は納得出来るが、と腹が立った。
 私は菜園に立つたびに、先の一件を思い出し悶々とした気持ちであったが、住宅地でゴミを燃やすことは匂いはもちろん、防災の点からも許されないことなのでご婦人の申し出に従った。
 ただ、ご婦人の御節介に少しの愛情や愛嬌がほしかった。目くじらを立てて、大上段に構えてご注意を申し上げますでは、注意された私もいい気持ちはしなかった。あのご婦人は一体何様のつもりであったのか。また、自らをどんな立場だと思って他人と接しているのか、などと考えさせられた。

 それから二か月ほど経った早朝である。私が菜園を眺めていると、先のご婦人が近づいて来た。また、何かを言われるのかと身構えたが、御節介を受けてからは、一切ゴミを燃やしていないので平常心を装った。
 ご婦人は、「黒瀬さん、おはようございます。以前は大変失礼なことを申しましてお気を悪くしたことと思います。どうかあれはなかったことにして下さい」と、言って深々と頭を下げた。私は、あまりの変わり身に驚き呆気に取られながら、「いやいや、どういたしまして……」と、対応するのが精一杯であった。
 その後、ご婦人の後ろ姿を見送ったが、以前とは違って何か肩の荷を降ろしたように穏やかな感じであった。私は考え込んだ。ご婦人から注意を受けたゴミ焼きは決して許される行為ではない。それなのに、二か月も経ってご婦人から前言を無かったことにして下さい、などと言われる筋合いはないはずである。それを、ご婦人は恥を忍んであえて申し出たのはなぜだろうか……。

 ご婦人は、初対面のとき高圧的な態度であったが、私は何の反論もしなかった。その素直さに感心したのであろうか。いや、おそらくご婦人は自分の御節介やきの性格に嫌気がさしたのであろう。また、高飛車な態度で物申したことを反省し、後ろめたい気持ちに堪えられなくなったのであろう。そうとしか考えられない。なぜならば御節介の内容は当然のことなのだから……。
 もし、私がその後もゴミを燃やし続けていれば、ご婦人はますますエスカレートしたであろうが、一度もゴミを燃やしていないので、かえって拍子抜けしたのであろう。それからすると、いくら正しいと思われる御節介であっても、少しは愛情を秘めたものでなければ、後々、気まずい思いになるのかもしれない。

 私の子供のころは隣のおじさんやおばさんにいろいろ御節介を受けた。「畑の中で遊ぶな」「川遊びは危ない」「夕方は早く家に帰れ」などと怒られたものである。しかし、これらの御節介には必ず愛情が込められていた。それによって育てられたのである。
 ところが、今の世の中、他人のことは見て見ぬふりで御節介など縁遠くなった。 (『架け橋』より)