ペット事情          
                中井和子

 公園などへ散歩に行くと、まるで、ぬいぐるみが歩いているような小さなかわいらしい犬たちに出合う。
 とくに、短く縮れた茶色の体毛に、耳が垂れて、まっすぐの足はちょっと太めの、その名もトイプードルという犬種なそうだ。
 私が初めてその犬種を目にしたときは『まあ、なんてかわいらしい!』と、追いかけたいほどであった。
 そのころ、我が家の愛犬メメ(キャバリア犬種)が十六歳の生涯を終えたばかりであったから、メメを懐かしむ気持ちもあって、よその犬たちへ向ける私の視線は、つい、格別になる。
 我が家のペットの死を知った友人が慰めてくれた。
「寂しいでしょう? もう飼わないの?」
「私たちの年齢では、もう、最後まで面倒をみることはできないから……」
「それなら、収容施設に保護されている犬を飼ったらどう?」
 友人の言に、そのような方法があったのかと、不勉強な私は目を見張った。メメは知人から貰い受けた犬であった。

 そのような折、『カンパより大切な啓発を』という、ビラがポストに入った。
『仮に百億円のカンパをもらったとしても、繁殖の間違いを理解できない人間が減っていかないと、不幸な動物は減らない。カンパが一円もなくとも、繁殖の間違いを理解する人間が増えれば当方の負担金(不妊手術)はかなり減り、そして、不幸な動物が激滅する。日ごろから繁殖の反社会性を広く国民へ啓発する必要性を痛感する』という趣旨であった。
 所属団体名はなく、女性の個人名でのビラであったが、動物愛護団体の方らしい。飼い主たちが生まれた子犬、子猫をもて余して公園などに捨てたりする。そして、それらが野良化してしまうので、その犬猫を捕まえては不妊手術を受けさせているという。
『収容施設の前に犬、猫を捨てていく人がいる。施設がギュウギュウ詰(づ)めになって、相性の合わない動物同士は、殺し合いになるほどの喧嘩(けんか)をする』
 私は、ペットブームが作り出す陰の部分を見た思いがした。
 福島県内でも年間三千匹の動物の命が行政処分されていて、全国では十七万匹の犬や猫が殺処分されているそうだ。税の悲しい無駄遣いである。
 一匹の猫が一度に五匹、年二回の出産、一年後には七十二匹に増える。具体的な数字を見て、私は驚いた。そして、ビラの文は続く。
『野良猫に無責任にエサを与えてはならない。繁殖は虐待なのである。そして、動物を売る人も買う人も、また、反社会的である』
 と、その女性は訴えていた。
 私は、メメを外には放さないものの、避妊手術は受けさせていた。
 しかしながら、私のように飼い犬だけにとらわれている無知な人間たちに対しても、苛(いら)立ちを感じているようなビラの文面であった。
 そして、また機を同じくして、雑誌に、野良猫の避妊や去勢費用を負担するなどのボランティア活動をされている女性の話が載っていた。
『生体販売の陰には、パピーミル(子犬、子猫工場)が存在している。
 不衛生で荒(すさ)んだ管理のもと、親犬や親猫を狭い檻の中に閉じ込め、散歩もさせずに繁殖だけを繰り返し強いている。そして、生まれた子は展示販売される。人間のエゴにより、多くの動物が地獄のような一生を送るのである。
 もし、動物を飼うことを考えている方は、ぜひ保護施設の子たちを家族の一員に迎えてあげてください』
 私は初めて、動物愛護のボランティアの方たちの活動と深い動物への愛情を知った。
 私は、よくドッグフードを買いにペットショップに出かけていたが、そこには、たくさんのかわいい子犬、子猫が展示即売されていた。あれはパピーミルで、人間好みに作られた子犬、子猫だったのか? 
 そして、このとき一つの謎が解けた。
 それは、メメの犬種についてである。キャバリアはイギリスの猟犬である。メメは十三キロの小型ながら、いきなりダッシュして走る姿は、まさに猟犬であった。
 しかし、テレビのコマーシャルに出ていた可愛いいキャバリア犬は、体重数キロほどでか弱そうだ。どう見ても猟犬とは思えなくて、専門家の方に問うたことがあった。
 キャバリア犬には、体重が十三キロになる犬と、成犬でも七キロという小型の二種類があるという。納得のいかない話であったが、このたびのビラや、雑誌からすると、パピーミルで、人間好みに作られた可能性もあるのか。
 私は、欲のために動物たちの生命を操作する傲(ごう)慢な人間たちに憤りを感じる。そして、生まれながらに犠牲を強いられる動物たちへ、哀燐(れん)の情を深くしたのであった。