落語「二人会」 
              石川のり子 

 例年どおり、落語「二人会」を十月初旬に開催する予定で、代表のFさんが立川談修と立川平林に交渉した。日程が決まり、「和と輪の会」の会員は、チラシを刷り、チケットも150枚ほど作り、販売を始めた。四回目とあって、地元で安く落語が楽しめると好評で、チケットは完売した。
 ところが、肝心の天候が味方してくれなかった。台風18号が直撃し、暴風雨で常磐線の電車の運行も危ぶまれた。やむなく延期とし、チケットの払い戻しをした。
 Fさんは再度、東京在住の二人の落語家と日程を調整し、二か月後の12月3日に開催の運びとなった。
 当日は晴れあがり、風は少々冷たいが広い寺院の境内にはまだ紅葉も残っていて、見上げると青空も望めた。
 会場の畳敷きの本堂には、椅子を百脚並べ、廊下にも50脚ほどの折り畳み椅子を置いた。高座は、どじょうすくいが踊れるように少し広めに設けてある。回を重ねるごとに設営がうまくなった。
 開場時間の一時半になると、会員十数名は定例会で打ち合わせたとおり、男性は駐車場までの車の誘導、女性は受付係の任についた。

 前座は二つ目の立川平林(ひらりん)である。若いこともあって人当たりが良く踊りがうまい。毎回踊るどじょうすくいを楽しみにしている人もいる。
 駅へはMさんが車で迎えにいったが、全然人を見かけなかったらしい。大勢の人が集まった会場を見て、地面から湧き出たとしか考えられませんと、まず笑いをとっていた。
 私たちも落語を企画した初回は、チケットが売れるかどうか心配した。会場が寺院だったことで、檀家総代の方に声をかけて檀家さんに買っていただいた。赤字にならなかったことが回を重ねることにつながったが、その一、二年前、NHKの朝の連続テレビドラマ『ちりとてちん』で、ヒロインが落語家になる物語が放映された。その影響も多少はあったのだろうか。
 平林の前座噺(ばなし)は、『牛褒め』である。少々頭の弱い息子の与太郎を、少しでも人並みにみせたい父親が、伯父さんの所に行って新築した家をほめてこい。うまくほめれば小遣くらいはくれるだろうと、ほめ言葉を教える。
「家は総体檜(ひのき)造り、天井は薩摩の鶉(うずら)木、左右の壁は砂摺り、畳は備後(びんご)の五部縁(ごぶべり)……」口移しで教えても与太郎にはチンプンカンプン、めちゃくちゃな覚え方。よく稽古をしてから行くようにと、書いてもらった紙を懐に、何とか切り抜け、伯父さんから小遣をもらう。これに味をしめて、新しく牛を買った人のところへ行き……。
 頭のめぐりの鈍い与兵衛が、どんなことをやらかすか予想がついて、平林が話す前からクスクス笑っている観客もいた。
 笑った後はどじょうすくいである。今年は安来節の全国大会で優勝し、落語家の中で日本一となったと新聞にも載ったそうで、たしかに昨年よりうまくなっていた。

 ついで、真打の立川談修(だんしゅう)が高座にあがった。四年前に初めて顔を合わせたときは二つ目で、真面目で寄り付きがたい雰囲気を漂わせており、まだ独身だった。落語家さんは気さくにお話をされると思っていたので意外だった。
 自己紹介によると、高校・大学と落語研究会で、専修大学卒業後は立川談志に弟子入りした。名前は出身大学の一字から師匠につけてもらったという。順調に修行してきたと思いきや、「二つ目への昇進意欲が感じられない」という理由で、他の前座五人と一緒に師匠談志に破門された。翌年に一門復帰の試験と二つ目昇進試験が行われ、談修だけが認められたという。談志師匠が亡くなり、最後の直弟子となった。
 演目は『芝浜』である。
 腕はいいのだが、飲んだくれの魚屋、女房に暗いうちから叩き起こされて、「商売に出てくれないと、食うこともできない」と、河岸へ送り出される。が、早過ぎてまだ問屋が開いていない。芝の浜へ出て日の出を待ちながら煙草を一服吸っていると、波打ち際に打ち寄せられている古い革の財布を見つける。中を見ると大金が入っている。 一目散に駆け戻り、女房と数えると、50両ほどある。天にも上る心地で残り酒を飲んで寝込む。起き出して湯に行った帰りに友達を連れて帰り、飲めや歌えやの大騒ぎをしたうえ、寝入る。
 翌朝、また女房に叩き起こされるので、「芝の浜で拾った金があるのだから商売に出なくていい」というと、「そんなものがあるなら苦労はしない、夢を見たのだろう」と相手にされず、「金を拾う夢を見るようでは人間おしまい」と意見までされる。そこで心機一転、酒を断って一生懸命働く。三年経って借金も返し、一軒の店を持つまでになった。財布は落とし主が現れず、払い下げになっていた。しおどきを見て女房は、「隠し事をしてすまなかった、機嫌直しに」と、酒を出してくれた。その酒に口をつけようとして、「よそう、また夢になるといけねえ」
 この内容をセリフと身振りで演じるのだから、力量が問われるだろう。談修は見事に演じ切って、高座を下りた。
 落語通によると、談修は真打になって味が出てきたという。導入の小話でも、延期になった台風をネタにしている。暴風雨でだれも来ないだろうと思ったが、中止の連絡がないのだからと出かけていくと、びしょ濡れになった客が一人来ていた。こんな日にどうしてきたのかと訊ねると、家は雨漏りがひどいが、ここは雨漏りの心配がない。
 笑っているうちに二時間は過ぎた。

 代表のFさんは、「笑いは健康にも良いそうで、みなさん、お元気でまた来年お会いしましょう」と締めくくった。