利根親水公園             
                  石川 のり子

 いつになく熟睡して目覚めると5時だった。寝室の雨戸を開けると、空は雲に覆われ、日は差していない。暑くなく歩くにはちょうど良いようだ。まだ近所の家々は雨戸が閉まり、寝静まっているが、散歩に出ることにした。
 ウエストポーチにペットボトルとカメラ、ジーンズのポケットには万歩計のついたスマホとハンカチを入れた。車でなら10分ほどの親水公園へ、今が見ごろの古代ハスを見に行くのである。
 日頃の行いの正しい人は、ハスの開花する「ポン」という音が聞こえると、母に聞いたことがあったが、私はどうだろうと、半分期待しながら歩いた。 
 道路の両側には青田が広がり、見渡す限り緑で、私自身も緑に染まってしまいそうな気分だが、爽やかである。ときおり車が走り過ぎるのみで、人影は全然ない。昼間でも歩行者の少ない歩道にはコンクリートの継ぎ目から雑草が生えていて、足元が露で濡れて歩きづらい。私は車道の右端を、大手を振って歩いた。

 利根親水公園の古代ハスは、期待に違わず見事に咲いていた。朝霧の中から現れた一面に広がる淡いピンクの花は、歩いて訪れた私を歓迎してくれているように感じた。全体が見渡せる中央に立ってしばらく見惚れた。
 広さは16,270平方メートルと案内板には書いてある。水生植物の二つの池と、その周囲にはシダレヤナギやサクラなどが植えられ、小高くなった芝生には東屋にテーブルと椅子が置かれて、全体が一望できるようになっている。垣根にはアジサイも植えられている。
 思いの外、来場者が多い。カメラを構えた中高年の男性が数人、犬を連れた女性、網を持った野球帽の小学生までいる。歩いているときは人を見かけなかったのに、車で来ていたからだろう。駐車場には乗用車が10台ほど並んでいる。
 入口からまっすぐ進むと木製の椅子が置かれてある。そこに座して、顔の汗をぬぐいながらひと休みする。目の前には左右の池を覆っている直径50センチもある大きなハスの葉、その葉の間から茎を伸ばした大小さまざまなピンクの花、咲き終わって実を蓄えた茎、これから咲こうとする大きな蕾、極楽浄土はこのようにハスの花が咲き乱れているのだろうか。朝露に濡れた花は新鮮で、凛としていて見ていて飽きない。
 いつもは昼ごろ車で来て、木陰を選んで一巡するのだが、今朝はのんびりと池の中に渡された木橋を歩き、足音を聞いて泥の中に逃げ込むオタマジャクシやザリガニを覗き見る。小さなカメもいる。背の高いハスの陰にならない水面には、スイレンも白い花を咲かせている。わが町にもこんなに美しい公園があるのだと、改めて誇らしく感じた。

 私が初めて訪れたのは、この地に越して間もなくの8年ほど前だった。「歩く会」に入会し、田んぼの中にあるこの公園に、トイレ休憩で寄ったのだ。まだハスやスイレンが植えられたばかりで、池には大きなオタマジャクシが無数に泳いでいた。水生植物園とのことで、ショウブやカキツバタの花が咲いていた。池に渡された木橋を渡り、写真を撮った。その頃はこんなに見事な蓮の池になるなんて想像できなかった。
 この親水公園の古代ハスは、利根町の純粋な品種らしい。耕作農地を広げるために深く掘り返した際に、底の粘土質から種子が見つかり、関係者が「古代ハスに違いない」と、自宅に持ち帰り育てた。深い眠りから覚めたハスは、淡い美しい花を咲かせたそうだ。町の事業として整備した親水公園に植えたのだという。
 古代ハスとして有名な大賀ハスは千葉市にある東京大学険見川厚生農場の落合遺跡で発掘され、2000年前の弥生時代後期のものと推定されるそうだ。他にも埼玉県の行田ハスは、ゴミ焼却建設予定地から出土し、およそ1400年から3000年前ものが発芽したものらしい。わが町のハスは何年前のものなのであろうか。
 ハス池のハスの手入れは水を抜いて枯葉や古い根などを取り除くのだが、根は固くて食用のレンコンのようなおいしさはないそうだ。茎や種子も食用にしないので、眠っていたハスは勢いよく増えている。その証拠に、ハスは池だけに留まらず、水を流している川にまで流出し、川面を覆い、3つ目の池のように広がり、見事な花まで咲かせている。

 このたびは、残念ながら花の開く音は聞けなかったが、何度でも訪れて、ぜひとも聞きたいものである。